特別コラム

◆ ~消費 私の見方~

 

消費者から共感者の時代へ

 自動車や高級ブランド品が売れている。1車種で月に何万台も売れる車がある。バックなど、高級ブランド雑貨が世界一売れているのはこの日本。また、行列のできるお店がいくらでもある。3ヵ月先まですべての旅館が満室という温泉街もある。すべての業界に成長している企業が存在する。モノが売れない、のではく、売れるモノしか売れない。
 面白いことに、この不況の中で売れている商品や急成長している企業は枚挙に暇がない。それは顧客が僅かな価値の差を重視するために、一部の企業に集中しているからである。売れる企業では、そのような他社にはない何らかの価値を提供することができている。「何が売れるか」よりも「何を売りたいのか」「何を売るべきか」ということにこだわりを持っている。そもそも世の中に、こうすれば売れるという誰でもできるような簡単な手法などは存在しない。売れる方法や商品を考える前に、どのような価値を提供するのかを考える必要がある。それが中途半端であったり、他社にもできるものであったりするのならば売れるようにはならない。どのような狭い分野であっても日本一、世界で唯一になることがポイントだ。なぜならば、お客様は日本一、世界一と比較するからだ。一番だけが生き残る。だから目指すのは他社に勝つことではなく、価値や感動を与えられる自分らしさを追求することである。
 つまり目指すべきは「最大」より「最強」である。生き残りを目指しているような企業は生き残れず、他にはできない価値の提供をするために本物・一流を目指す企業だけが生き残る。独自の価値を提供することができれば、すべての企業が成長できる社会でもある。もちろん、同じことをやっていれば一番だけしか生き残れない。
 顧客のニーズに対しては量よりも強さ、どれだけ個別の強いニーズに応えられるかが問題となる。マーケットシェアを拡大することよりも、たとえ狭いマーケットであったとしても企業や商品のファンを創ることである。広くたくさんの人々を対象にするよりも、わずかでも本当に求めている人たちだけを対象にビジネスを展開する。欲しい人はどうしても欲しいが、欲しくない人は全く関心を示さなくでもいい。ニーズは絞り込むほど、ニーズに応えやすくなる。もちろん、それだけ求められるレベルは高くなる。
 そして、そのレベルを感動にまで高める必要がある。感動は相手の想像を超えることによって生まれる。顧客の期待以上のことを目指し、「まさかここまで!」と言っていただくことができれば、感動した顧客は黙っていられず、企業や商品の宣伝をしてくださるようになる。一方で、不満を感じた顧客のほとんどは苦情を言わずに去っていく。顧客は行動で真実を語る。
 大事なことは未来の百万人の顧客よりも、目の前の一人の顧客である。目の前の一人の顧客が未来の百万人の顧客を連れてきてくださる。言い換えれば、それは今日の売り上げよりも明日の売り上げを大切にすることだ。今日どれだけ売れるかよりも、今日来てくださった一人の顧客がどのような気持ちで家に帰って行ったか、の方が問題となる。その顧客がもう一度明日来てくださるか、さらに友人や知人を誘って来てくださるか、数字的目標よりも感動的目標を目指した企業の数字が大きくなる。売り上げは、お客様が決めている。
 顧客は単に商品を購入して消費するのではなく、商品に込められた企業の社員一人ひとりの「思い」を買っているのである。「思い」の強い人々の商品は完成度も高く、こだわりのある「作品」と言った方がいい。また、「思い」のあるサービスは形だけのいかなるサービスよりも顧客を感動させることができる。企業側から見れば商品やサービスを通して社員一人ひとりの「思い」を伝えていることになる。
 企業の成長にはそこで働く社員一人ひとりの「思い」がとても大切であるとすれば、「何のために働いているのか」という問いに対して、「生活を守るために働く」という以上の何かが必要である。それは「お客様に喜んでいただくために働く」「充実した人生を送るために働く」「地域や社会に貢献するために働く」といったものである。働くことそのものに意味がなければならない。そして、そのような意味を感じながら働くからこそいい仕事ができるようになる。顧客から見れば、商品やサービスを通してそこで働いている人々の姿を容易に想像することができる。社員の働く姿こそが、最高の商品になるのである。
 顧客が消費者から共感者に変わってきているのだ。単に消費するのではなく、消費する意味が大切になってきている。それは、言い換えれば企業の理念に共感したファンなのである。そして、ファンを持っている企業は強い。不況になるほどその強さは際立ってくる。ファンは容易には他の企業の商品に目移りしないばかりか、さらなるファンを増やしてくださる。売り上げや規模を追求するだけの企業にファンは創れない。ファンづくりにはまず企業側の強い「思い」が必要である。
 このように考えていくと、事業において最も大切なことは利益より優先するものを持てるかどうかということになる。目先の小さな利益に振り回されていては、本当の価値を提供することができないばかりではなく、社員の意識を高め企業を活性化することはできない。もちろん自社の利益ばかり優先する企業を社会は受け入れないだろう。信頼される企業というのは、自分の都合よりも顧客の都合を優先できる企業である。目先の利益よりも社会の利益を優先することができる企業である。そのような考え方をしっかりと持ち、社員一人ひとりがそれを行動に移すことができる企業だ。企業の信頼は企業そのものにあるのではなく、それは社員の日々の活動によってつくられるものである。企業が信頼されて社員が信頼されていない企業はない。
 企業活動には普遍的、絶対的な理念が必要である。どのような状況に置かれたとしても理念という不動の軸を持ちながら変化に対応し、さらに変化を生み出していく。形は変わることがあっても軸は変わらない。そのような理念に基づいて活動していくことで、初めて企業の存在価値が生まれ、感動を与えられるような商品やサービスを継続的に提供し続けていくことができるようになる。利益は、その結果に過ぎないのである。
 すべては、自助努力である。景気がどうであれ、世の中に価値と感動を提供する企業をつくることに徹する。景気がどうかではなく、どれだけ価値を生み出していくかをみんなが考えた時に景気が良くなる。未来は予測するものではなく、創造するものである。

「どんな山奥であっても、本当に美しい滝があれば、見に来る人がいる」

株式会社アントレプレナーセンター
福島正伸

(出典:日経消費経済フォーラム会報)

 

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